今回は「遺言でできること」(遺言事項)を説明します。
遺言でできる行為は法律で決められています。何でもかんでも遺言することは出来ません。何しろ遺言は一方的に遺言者の意思だけでその効果を発生させようとするものです。財産処分にかかわる事項は、ご自身の財産の承継に係る内容なので原則行うことができるのですが、
家族関係に関する事項
- 認知
→婚姻関係にない人の間の子(嫡出でない子)を、その父または母が認知すること
- 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
→未成年者に対して親権をお持ちの方が、その未成年者の後見人と後見監督人を指定することができること(注1)
法定相続に関する事項
- 推定相続人の廃除・排除の取消し
→排除事由(注2)があるときに家庭裁判所の審判である相続人の相続資格をはく奪することができること
→指定や取り消しがあった場合は、「遺言執行者」(注3)が推定相続人の「廃除」あるいは「排除の取消し」を家庭裁判所に請求しなければならない(民法第893条、894条)
- 相続分の指定及びその委託
→法定相続分とは異なる相続の配分(割合)を指定すること
- 持戻しの免除
→特別受益文を相続分に持ち戻させないようにすること
- 遺産分割方法の指定及びその委託
→個々の財産をどのように分割するかを指定すること
→例えば、「不動産甲と乙を売却したうえで、売却代金を妻Aと子Bが法定相続分に応じて取得すること」や、「甲土地は妻Aに、乙土地は子Bに相続させる」(特定財産承継遺言)などといった指定ができます
- 遺産分割の禁止
→相続開始の時から5年を超えない期間、遺産分割を禁ずること
- 相続人の担保責任の定め
→承継したい遺産に欠陥があった場合に、他の相続人が相続割合に合わせて負担すべき割合を変更すること
- 受遺者・遺贈者の遺留分侵害額の負担に関する定め
→遺留分侵害額の負担すべき割合を変更すること
上記以外の財産処分に関する事項
- 遺贈
→被相続人が他人に遺言によって自己の財産を与える行為のこと
→例えば、「遺産のうちと履行を友人Aに譲る」などができるなどと記述します
- 配偶者居住権の存続期間
→遺言で期間の指定がない場合は、配偶者死亡の時までとなります
- 一般財団法人の設立、信託の設定
遺言執行に関する事項
- 遺言執行人の指定及びその委託
- 特定財産に関する遺言の執行に関する定め
- 遺言執行者に関する定め
以上に加えて、「遺言の撤回」も遺言の形式で行うことが求められています。遺言の撤回はいつでも自由にできるのですが、撤回の意思が真意であることを明確にする趣旨で規定されています。
今回は「遺言でできる行為」(遺言事項)について説明しました。次回以降で「遺贈」と「特定財産に関する遺言の執行」について説明します。
(注1)
実務では遺言によって未成年後見人が指定される例はほとんどないようです。親権者の死亡により、親権者がお一人もいらっしゃらなくなったときは、「未成年後見」が開始します。このことに家庭裁判所の審判は不要です。しかし、「未成年後見」が開始しても「未成年後見人」は選任されていません。もし遺言での指定がない場合は、未成年者当人あるいはその親族その他の利害関係人の申立てにより、家庭裁判所が未成年後見人を選任します。(民法840条1項前段、841条)。
(注2)
廃除事由は、①被相続人に対する虐待、②被相続人に対する重大な侮辱、③被相続人に対するその他の著しい非行とされています。(892条)対象は遺留分を持つ相続人に限定されています。遺留分を持たない相続人には、生前贈与や遺贈などで自らの財産をすべて処分してしまえば遺産を承継させないことができるということからこのように限定されています。
(注3)
遺言は相続人が原則として執行します。しかし、遺言で「遺言執行者」が指定されている場合は、遺言の執行はその「遺言執行者」に全面的に委ねられます。相続人は遺言の執行に関して何も権限や義務を持ちません。ちなみに、「遺言執行者」は遺言での指定だけでなく、利害関係人の請求によって家庭裁判所が選任するケースもあります。「遺言執行人」は相続人もなることができますし、複数人でも構いません。ただし、相続人の一人を遺言執行人に指定すると、他の相続人との間で利益相反関係となることもあるため注意が必要です。