今回は「遺贈」について説明します。
「遺贈」とは遺言者(被相続人)が遺言によって他人に自己の財産を与えるという行為です。
「受遺者」と「遺贈義務者」
「受遺者」は相続人でもそうでなくてもかまいません。相続人が受遺者?と疑問に思われるかもしれませんが、例えば相続人が「相続放棄」をした場合などです。「相続放棄」をした相続人でも遺贈を受ける資格は失いません。(注1)
また相続開始の時点では生まれていない「胎児」も受遺者になることができます。(注2)
「受遺者」にも「相続欠格」が準用されますので、対象者は遺贈を受ける資格を喪失します。「廃除」規定は準用していないので「廃除の審判」を家庭裁判所から受けた者でも「受遺者」にはなることができます。
「遺贈義務者」とは、遺贈を実行すべき義務を負っている方のことです。原則として相続人がこれにあたります。
ただし、「遺言執行人」が指定されている場合は、「遺言執行人」だけが遺贈の履行をすることができます。
「遺贈」が無効になるケース
まず受遺者は、遺言者の死亡により遺言の効力が発生するときに生存していることが必要です。遺言者がなくなる前に受遺者がなくなられている場合はその遺贈は無効です。
遺贈の対象財産が、遺言者の死亡の時に遺言者に所属していなかった場合も、遺贈は無効となります。例えば、遺言者が生前に第三者が所有している甲土地を入手して遺贈するつもりで遺言で遺贈の意思表示をしていたものの、実際には遺言者がなくなる時点でも甲土地は入手できていなかったケースなどが想定されます。
「特定遺贈」と「包括遺贈」
「特定遺贈」はその名の通り、特定の財産を指定して遺贈することを言います。「甲土地をAに譲る」とか、「アルファ銀行に対する預金債権のうち50万円をBに譲る」などのようなものです。
これらの遺贈を望まない受遺者は、遺言者がなくなられた後、いつでも「遺贈を放棄」することができます。一度した遺贈の放棄や承認は原則として撤回することは出来ません。
「包括遺贈」とは、遺言者の遺産の「全部または一定割合で示された一部」を遺贈することを言います。「遺産の全部を(三分の一を)友人Aに譲る」のようなケースです。こちらの包括遺贈の場合は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も承継します。「包括受遺者」は「相続人」と同一の権利と義務を有することになります。よって、3か月の熟慮期間があり、その期間内であれば家庭裁判所に放棄や限定承認することが可能です。また「包括受遺者」は「相続人」と同様に遺産分割の当事者となります。
「条件付き遺贈」や「負担付遺贈」
「(停止)条件付き遺贈」とは、例えば「Aが結婚したら、甲土地をAに譲る」のような遺言ケースも可能です。
「負担付遺贈」は、例えば「子Aに2000万円譲るが、私の妻Bの生活一切の面倒を見ること」のような遺贈のケースです。このようなケースでは、遺贈を承認した「受遺者」は遺贈財産の価額を超えない限度で負担を履行する責任を負うと規定されています。(1002条1項)「受遺者」がその責任を履行しない場合、「相続人」が相当の期間を定めて「受遺者」に対して履行を催告できるとされています。
今回は「遺贈」について説明しました。次回は「遺言執行者」について説明します。
(注1)
「(相続人の一人に)相続させる」という表現は原則として遺産分割方法の指定と解されますので、相続人に遺贈する場合の表現には使用しないようにしましょう。ご注意ください。
(注2)
「胎児」は相続開始の時に生まれていなくても、被相続人の子として「相続人」になることができます(886条1項)。ただし、生きて生まれてくることが必要とされています。