今回は「公正証書遺言」を説明します。

公正証書遺言の実務の進め方

以前「公正証書遺言」が民法でどのように作成の手順が規定されているかを説明しましたが、実務の手順は少し異なります。以下、行政書士がその作成をお手伝いするケースで説明します。

①遺言者が行政書士に相談しながら遺言書の内容を検討する

②行政書士が遺言書作成に必要な資料を集める(注1)

③行政書士が遺言書文案を作成し、遺言者に確認する

④公証役場に連絡し、公証人に公正証書遺言作成を申し入れる(注2)

⑤遺言者が確認した遺言書文案と収集した資料を公証人に共有する

⑥公証人が文案をチェックする

⑦公証人のチェックを遺言者に戻し、修正文案を最終確認する

⑧公証人と遺言書作成日程を調整する(証人2人とも調整する)

⑨公証役場で証人2人立会いの下遺言書を作成する(注3)

おおよそこのような手順となります。遺言書の原本は公証役場で保管され、改ざんや紛失の恐れもありません。

以上のように「公正証書遺言」は、公証人という法務大臣に任命された法律の専門家が、遺言の方式のみならず、その内容の実現可能性まで確認するので、自筆証書遺言より確実に遺言を残し、遺言者の意図を実現することができます。

また、遺言者の遺言能力についても公証人が確認しますので、相続人の中で起こる可能性のある遺言内容に関しての争いを予防することができます。

さらに家庭裁判所の検認も必要なく、相続後すぐに手続きを進めることが可能です。

デメリットは費用が掛かること、証人2名が必要なことです。ちなみに、推定相続人や受遺者ならびにその配偶者及び直系血族の方々、さらに未成年者は証人にはなることができません。本件を担当する行政書士が証人の一人になることも多いようです。証人のもう一人は、担当の行政書士に依頼すれば、同業の専門家(行政書士、司法書士、税理士など相続業務にかかわることの多い方々)を探し依頼することも可能です。

公証人による公正証書遺言の作成件数は、令和6年で128,378件でした。ここ最近は年間10万-12万件くらいで推移しています。

公正証書遺言の作成費用

公正証書遺言(遺言公正証書)の作成手数料は、遺言により相続・遺贈する財産額によって変わります。各相続人・各受遺者ごとに、相続・遺贈財産価額を算出し、それぞれの手数料を求めて、合計額がその証書の手数料の額となります。

具体的には財産の相続または遺贈を受ける人ごとに以下の手数料を足しあげて、全体の財産が1億円以下のときは、その手数料総額に、1万1000 円(遺言加算)加算した金額になります。

各相続人・各受遺者毎の相続・遺贈財産価額手数料
100万円以下5000円
100万円を超え200万円以下7000円
200万円を超え500万円以下11000円
500万円を超え1000万円以下17000円
1000万円を超え3000万円以下23000円
3000万円を超え5000万円以下29000円
5000万円を超え1億円以下43000円

作成された遺言公正証書の原本は、公証人が保管しますが、保管のための手数料は不要です。

以上は、公証人(公証役場)における手数料です。加えて、行政書士に依頼する場合、行政書士への報酬も必要ですし、証人への日当など謝礼もお支払いしなければなりません。行政書士に相談いただければ全体の見積書を作成してくれます。

今回は公正証書遺言について説明しました。次回は遺言書を作成する際に知っておくべき項目を説明します。

行政書士藤本浩司事務所

(注1)

ここで収集する資料は、遺言者の戸籍などの資料、遺産を相続承継される方の戸籍などの資料、財産を確認する登記情報や預貯金などの資料などです。

(注2)

公証人」は「公正証書」(公文書)を作成する専門職です。原則として、裁判官や検察官あるいは弁護士の中から、公募により法務大臣が任命します。

公正証書」は公正な第三者である公証人が、その権限に基づいて作成した文書ですから、当事者の意思に基づいて作成されたものであるという強い推定が働き、これを争う相手方の方でそれが虚偽であるとの反証をしない限りこの推定は破れません。

公証人は、国の公務である公証作用を担う実質的な公務員ですが、国から給与や補助金など一切の金銭的給付を受けず、国が定めた手数料収入によって事務を運営しており、手数料制の公務員とも言われています。公証人は、事前に紛争を予防するという予防司法の役割を負っています。

公証人」は全国で約500名おり、公証人が執務する事務所である「公証役場」は約300箇所あります。

(以上、公証人連合会HPから抜粋)

(注3)

費用は別途かかりますが、公証人に出張いただくことも可能です。病室などでの遺言書作成も可能なので、遺言能力さえあれば、場所は自由が利くようです。公証人が出張する場合の手数料は、遺言加算を除いた目的価額による手数料額の1.5倍が基本手数料となる場合があります。(病床執務加算)この他に、旅費(実費)、日当(1日2万円、4時間まで1万円)が必要になります。