今回は「遺言執行者」について説明します。
「遺言執行者」とは、遺言者に代わって遺言の内容を実現するように、必要となる一切の事務手続きを執り行う人のことを言います。この「遺言執行者」の指定は、遺言によってのみ行うことができる行為です。(民法1006条1項)
「遺言執行者」は遺言の内容を実現するために相続財産の管理その他遺言の執行に必要な「一切の行為」をする権利と義務を有すると規定されています。(民法1012条1項)
そして、「遺言執行者」が指定されている場合は前回説明した「遺贈」の履行は「遺言執行者」のみが行うことができることになります。
「遺言執行者」を指定することのメリットとして、相続の事務手続きが非常にスムーズになることが挙げられます。「遺言執行者」が指定されていない場合の金融機関の預貯金及び不動産の名義変更には、全相続人の同意が必要なのですが、「遺言執行者」が指定されていれば単独で(1人で)行うことが可能となります。
財産の名義変更手続きを「遺言執行者」に任せることができるという意味では、相続人にとっても負担軽減になるともいえるのではないでしょうか。
遺言者にとっては、各相続人が遺言書の内容に異議を唱えて、勝手に相続財産を処分することができなくなるというメリットがあります。また、「遺言執行者」にしかできないこともあります。以前説明しました、「子の認知」や「相続人の廃除」などです。
また、相続人の中に遺言内容の実現に非協力的だと思われる方がいる場合や、認知症など同意の意思表示が困難な方がいらっしゃる場合などに「遺言執行者」を指定しておくと、遺言内容の実現がスムーズに行われる可能性が高まるというメリットもあります。
「遺言執行者」に関する手続きなどの流れはおおよそ以下のようになります。
- 遺言書で遺言者から「遺言執行者」に指定される
- 遺言者死亡により相続が開始され、遺言で指定されたものが「遺言執行者」に就任する
- 各相続人に遺言内容を通知する
- 「自筆証書遺言」で検認が必要な場合は家庭裁判所に検認請求を行う
- 「相続人調査」と「財産調査」を行う
- 具体的な遺言内容を実現する
- 執行を完了する
「遺言執行者」には相続人を指定することも可能です。しかし、法律知識や相続実務経験があるとさらにスムーズに手続きを進めることが可能になるため、弁護士や司法書士・行政書士などが「遺言執行者」に指定されるケースもあります。
とはいえ、遺言書作成時に法律の専門家を「遺言執行者」に指定することのハードルは高いと思われるかもしれません。
その場合は、遺言書で特定の相続人を「遺言執行者」に指定しておいて、相続開始後にその「遺言執行者」が法律の専門家にその仕事を任せる(復任する)こともできます。(民法1016条1項)遺言書作成時に「遺言執行者」に指定した相続人に対して、この内容をきちんと説明しておけば、その相続人が「遺言執行者」の役割を負担に思った場合に、法律の専門家にその仕事を任せればいいということです。
今回は「遺言執行者」について説明しました。次回以降は遺言執行者が行うことになる「相続人調査」「財産調査」についての実務を説明します。