(前回からの続き)自筆証書遺言における「家庭裁判所の検認」と「自筆証書遺言保管制度」を説明します。
前回少し説明しましたが、「自筆証書遺言書保管制度」を活用すれば、家庭裁判所での検認も必要なくなりますし、紛失や改ざんなどのリスクも減じることが可能です。
家庭裁判所での自筆証書遺言の検認
自筆証書遺言のデメリットの一つは、「家庭裁判所の検認」が必要とされていることです。デメリットと書きましたが、「検認」は、相続の準備段階と言えます。その遺言の存在と内容を相続人全員に知らせ、かつ検認の日における遺言書の状態を確認する「証拠保全手続き」です。ちょっとわかりにくいと思いますが、決して家庭裁判所が遺言書の法的有効性を保証してくれるものではありません。繰り返しますが、「検認」は遺言書の有効無効を判断してくれる制度ではないことはご理解ください。
検認の手順は以下のようになっています。
① 遺言を持っている方が家庭裁判所に検認を申立て、
② その後裁判所から全相続人に検認期日が通知され、
③ 検認期日に申立人と相続人(出席するかどうかは個人ごとの判断です)立会いの下で、裁判所書記官が遺言書の形状・加筆訂正状況・日付・署名押印を確認し、「検認調書」を作成する
というようなもので、全部で1か月程度はかかることが普通です。(注1)
しかも、検認期日に立会いの相続人から遺言書の方式や内容について疑義の発言があれば、紛争状況に突入しかねません。
特に封印された遺言書は、検認期日まで開封してはいけません。検認期日に家庭裁判所において、相続人他の立会いの下で開封することとされています。(民法1004条3項)
自筆証書遺言保管制度
上で説明した自筆証書遺言のデメリットを低減させる制度として「遺言書保管法」が令和4年に施行されました。この制度は以下のようなメリットがあります。
① 民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、法務局において外形的なチェックが受けられます。
② 遺言書の原本が法務局において遺言者死亡後50年間保管され、遺言書の紛失・亡失のおそれがなく、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等を防ぐことができます。
③ 家庭裁判所の検認が不要です。
④ 保管手数料は3,900円(令和7年5月現在)とお手頃です。
⑤ 撤回も変更も可能です。
ただし、法務局に遺言者本人が出向いて申請することが求められている点は注意が必要です。なりすましの防止が目的とされています。
この制度を利用していることをご家族(相続人になりえる方々)にお知らせいただいておくと相続開始後に手続きがスムーズに進みます。
遺言者がなくなられて初めて相続人は「遺言の閲覧」ができますし、「遺言書情報証明書」の交付を請求することができます。(注2)
前回と今回で自筆証書遺言について説明してきました。次回は公正証書遺言について説明します。
(注1)
現実には家庭裁判所に検認申立てを行う前に、相続人の確認は終わらせておかなければならないので、そのための戸籍謄本ほかの収集と整理を合わせると合計2か月程度かかることもあります。
(注2)
「遺言書情報証明書」とは、自筆証書遺言保管制度を利用した場合において、検認済みの遺言書に代えて、不動産等の相続登記や金融機関の預貯金東の名義変更の際の提出書類として利用できるものです。しかも全国の法務局で交付申請が可能です。