前回から遺言について民法ではどのように規定されているかを中心に説明しました。繰り返しになりますが、財産の承継という領域では、被相続人の意思が最も優先されます。被相続人がご自分の意思を遺言という形で確実に伝える意味はここにあります。

遺言を作成するメリット

希望通りに財産を相続人他に引き渡すことができる

自分の望み通りに財産を相続させたいという意思がある場合は、ご自身の財産とその配分について、生前にしっかりと遺言書に明記し残しておけば、原則ご自身の意思通りに相続を実現することができます。

また、法定相続人ではない方に財産を相続させたい場合には、遺言書の作成が必須となります。事実婚のパートナーの方や生前大変にお世話になった方、特定の活動に力を入れているNPO法人など、自分の死後に相続人ではないが遺産(の一部)をぜひ承継してほしいと思われる相手がいらっしゃれば、遺言書でその意思を表すしかありません。

遺産分割協議を経ずに財産を相続させることができる

遺産分割協議は、基本的に相続人全員の同意が必要となります。相続人の中に協力的でない方や分割方法に反対される方、または音信不通の方が一人でもいらっしゃる場合は、遺産相続争いのようなトラブルが起こってしまったり、相続の手続きが進められなくなったりしてしまう可能性があります。

トラブルとまではいかなくても、財産の中で不動産の占める比率が大きい場合など、不動産は物理的に分割することがむつかしいため、どのように分割するかを相続人が悩まれることも想定されます。たとえ仲が良い家族であっても、難しい課題です。

遺言書があれば、このようなトラブルの発生も防げますし、相続人同士では判断がむつかしい課題を残して手続きが停止してしまうことも防ぐことができます。相続が始まっても、法的に有効な遺言書の記載に沿って、スムーズに財産の名義変更や分配の手続きを進めることができます。

三菱UFJ信託銀行が2021年に発表した『現代日本人の相続観~相続に関する意識調査より~』(注1)を見ると、相続経験のある方が『相続の時に負担・不満』と感じられたのは、第1位「相続手続き」(54.2%)、第2位「財産の把握」(34.1%)となっています。

同じ調査で「遺言は必要だと思う」と回答されているのは、相続経験のある方の45.3%で、その理由として1番に挙げられているのは「争いやもめごとの原因になりそうなことは極力なくしておきたい」(53.4%)です。

私は、相続人の相続時の手続きを簡素化し、さらに相続人同士のもめごとの原因を減らすという意味がある遺言は、ぜひ作成しておくべきだと考えています。

遺言の方式(実務面から)

前回は「普通方式」の3種類について法律の規定を説明しましたが、今回は実務面からそれぞれのメリットとデメリットなどについて説明します。

自筆証書遺言

最大のメリットは、遺言者(被相続者)が自分の都合のいいタイミングで、いつでもどこでも自由に作成することができるという点にあります。また、だれにも内容を知られることなく、ご自身の意思を文面に残すことができます。

さらに、費用もほとんどかかりません

また、先ほどの三菱UFJ信託銀行の調査にもあったように、相続において相続財産を調べることも大きな負荷になります。遺言者が相続財産をあきらかにしていれば、相続人の相続手続きの負荷も小さくなることは間違いありません。

逆にデメリットは何でしょうか。

まず、遺言書を全部自筆するのが大変だというのが難点です。先ほど言いましたように、様式に沿っての自筆が求まられます。できるだけトラブルにならないように、なぜそのように分割をしてほしいと考えたのかまでを「付言」(注2)で記述しようとすると、本当に大変です。訂正方法も二重線で取り消し、正しい文言を修正箇所近くあるいは末尾等に記しそこに押印します。さらにその修正内容を末尾に記したうえで署名することが求められます。私も自身の遺言書を書いていますが、実際に取り掛かるとなかなか大変です。

ただし、平成30年の改正で、相続財産目録を添付する場合は自筆であることを擁しないとされました。財産目録はパソコンで一覧表にすればいいので、修正も楽です。また通帳や陶器証明書などのコピーでもOKです。この部分は大変さが多少緩和されていますね。

また、前回遺言書は「要式行為」だと説明しました。法律で定められた様式を守らないとせっかくの遺言書が無効となってしまいます。

そのほかのデメリットと言えば、遺言書の存在を誰にも知られないという反面、その遺言書は相続人の手に届かない可能性があるということです。遺言書の存在を明らかにするリスクもあれば、明らかにしないリスクもあるという、難しい判断ですね。さらに自筆証書遺言が見つかったとしても、相続人が開封してはならず、家庭裁判所で「検認」(次回詳しく説明します)を受けなければなりません。

この「検認」の手続きを省略できるのが、近年の法改正で始まった「自筆証書遺言書保管制度」です。遺言者自ら管轄法務局に自筆証書遺言の原本を保管申請します。この制度を利用すれば、家庭裁判所での検認も必要なくなりますし、紛失や改ざんなどのリスクも減じることが可能です。一度保管申請したとしても、取り消しや習性も何度でも可能です。また、一定の様式にかなっているかどうかも確認してくれますので、不備による無効のリスクは低減します。と言っても、遺言の内容が遺言者の意思にかなっているかどうかなどの内容の確認はしてもらえませんので、ご注意ください。

長くなってしまいましたので、今回はここまでとします。次回は引き続き自筆証書遺言書保管制度をさらに詳しく説明します。

行政書士藤本浩司事務所

(注1)

引用させていただいたレポートが下記URLにて公開されています。

https://www.tr.mufg.jp/souzoku-ken/pdf/chosa_kennkyu_02.pdf

(注2)

「付言」とは、遺言書の中で、法的な効力を持たせることなく、財産分割の特記項目や分割の理由、残される家族の方々へのメッセージなどを表記する部分のことを言います。法定相続分と異なる分割を支持している場合などに、なぜそのように遺言したのかの思いを書き記すことができます。