今回は第6回です。第2回から「法定相続」という相続の基本的なルールを中心に説明しています。

今回は「相続財産の共有と分割」について説明します。「遺産分割」については次回第7回で説明予定です。

共有」とは、複数の人たちが一つのものを「同時に所有」していることを言います。共有という意味で私たちは「シェアする」と日常的に使いますが、「シェアハウス」も「カーシェア」「デザートのシェア」分け合うという意味合いであって、同時に所有しているわけではないですよね。

相続財産は、相続が開始したら相続人の「共有」となります。この時点で複数の相続人がいらっしゃれば、その方々を「共同相続人」といいます。共同で相続財産を同時に所有している相続人という意味ですね。

で何もしなければこのままですが、通常は「共有」状態は一時的なものです。その後遺産分割という過程(手続き)に進み、相続財産がどの相続人の所有になるかが決定します。

共有」の状態は、一つの財産を複数の共同相続人の方々が同時に所有するという状態で、各々の相続人は「共有持分」を有されることになります。第4回で説明しました「相続分の割合」で「同時に」所有するという状態です。

共有持分」は具体的に「これです」と言って目の前に提示することはしにくい権利です。たとえば2人で1つの土地を共有している場合を考えてみましょう。土地を「共有」しているというのは、その土地に面積1/2づつ分ける線が引いてあって、それぞれの土地をそれぞれで所有しているというのではありません。その土地のすべて部分を「同時に」2人で所有しているということなのです。なので、その土地全部を(あるいは一部でも)売買しようと思ったら2人で共同して行うしかありません。

では、現金や預貯金はどうでしょうか。100万円の現金を2人で共有している場合、各自で50万円づつ所有していることになるのでしょうか。実は、現金も「共有」となります。ですので遺産分割協議後までは、勝手に持ち出すことは出来ません。

100万円の預貯金も「共有」ですので、分割協議後でないと引き出すことができません。

もちろん相続人全員が合意していれば、預貯金の引き出しは可能ですが、現実的には引き出しや名義変更は分割協議後です。

とはいえ、病院への支払いや葬儀費用などの出費が分割協議前にも発生することが普通です。このようなケースに対応できるよう、平成30年に民法の規定が改正されました。(注1)金融機関ごとに、150万円を上限として、「預貯金の残高×1/3×法定相続分」を相続人単独で引き出すことができるようになっています。相続人が引き出した金額は、遺産の一部を分割してその相続人が取得したものとみなされます。

では相続において、当然に「分割」されるプラスの財産(積極財産と言います)はあるのでしょうか。

以下のようなものがあれば、当然分割されて「遺産分割前でも」相続人それぞれが権利を行使することが可能です。

不動産の家賃収入(賃料債権)

亡くなられた被相続人がアパートや一軒家などの賃貸不動産をお持ちで家賃の収入があれば、この家賃は「遺産とは別個の財産」として扱われ(注2)、相続分に応じて「当然に分割」されます。後々の遺産分割協議の影響は受けないとされています。つまり相続人がそれぞれ単独で借主(賃借人)に家賃×相続分に当たる金額を請求することは可能です。

貸している現金(金銭債権)

被相続人がどなたかへ現金を貸していらっしゃれば、金銭貸借契約にのっとってその金額×相続分の請求も相続人単独で可能です。

そのほか、損害賠償請求権など

逆にマイナスの財産(債務)(消極財産)にも当然に分割して相続人に請求されるものがあります。

借りている現金(金銭債務)

上で「貸している現金(金銭債権)」が当然に分割されると説明しましたが、「借りている現金(金銭債務)」もまた相続分に当然に分割して承継されます。なので債権者は遺産分割協議の決定とは関係なく、相続人に法定相続分に応じた請求が可能ということです。

ただし、「賃料債務」は例外です。(注3)

以上、相続財産の共有と分割について解説しました。次回は、遺産分割について説明します。

行政書士藤本浩司事務所

(注1)

民法909条の2「遺産分割前における預貯金債権の行使」

(注2)

最高裁判例平成17年9月8日。

(注3)

通常の金銭債務(借金)は当然に相続分に分割されますが、被相続人が賃貸借契約していた賃料債務は「特段の事情がない限り共同相続人全員に帰属する」とされています。(大判大正11年11月24日)被相続人が使用されていた賃借物件をそのまま相続人が使用される場合はご注意ください。