今回は第8回です。今回は平成30年の民法改正で新たに設定された「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の2つについて説明します。
配偶者居住権
「配偶者居住権」の制度は、配偶者のために「相続開始の時」に居住していた被相続人の遺産である建物を無償で使用・収益することを認めるというものです。
配偶者が居住建物(と土地)の所有権全部を相続した場合、その評価額が遺産全体に占める比率が大きくなることがあり、配偶者の相続分(比率)をもってしてもその他の遺産を相続することができなくなり、「家はあってもお金はない」という状態に陥ってしまいかねないため、配偶者の生活を保障する意味で設けられた権利です。「配偶者居住権」は居住建物の賃料の配偶者一生分を先払いするというイメージです。
「配偶者居住権」は遺言あるいは遺産分割で発生し、配偶者の死亡により消滅します。また、前回説明した遺産分割手続きの中にあった「家庭裁判所の審判」によっても発生することがあります。配偶者の生活の維持のために必要な場合など、家庭裁判所が判断します。
ただし、所有者は別の相続人ですから、所有者の承諾なく勝手に改築や増築はしてはいけません。もちろん居住に必要な修繕は可能です。その修繕費用は配偶者の負担です。また、固定資産税なども配偶者が負担する費用(必要費と言います)となります。
この「配偶者居住権」は第三者に譲渡することは出来ませんが、所有者の承諾を得ることができれば、第三者に居住してもらうことは可能です。例えば、配偶者が介護施設に入居する場合など、この権利に相当する価額を配偶者が回収し、生活の維持に使用するために認められています。
配偶者短期居住権
「配偶者短期居住権」は先に説明した「配偶者居住権」とは性質が全く異なります。「短期」というのは、相続開始の時から6か月以内と定められています。(注1)6か月間という時間的な猶予があれば、転居先を探したりその引越し準備をしたりするのに十分だと想定されていると思われます。
借地借家法という不動産の賃貸借契約に関する法律でも、退去の猶予期間は同じ6か月間となっていますので、法律に共通する転居猶予期間だと考えてもいいでしょう。
もちろんこの配偶者短期居住権の場合でも、第三者への譲渡や無断での増改築は禁止されています。必要費を配偶者が負担するという点も同じです。
また、配偶者が配偶者居住権を途中で取得した場合は、配偶者短期居住権は消滅します。転居猶予期間目的の権利は必要なくなるということですね。
以上、配偶者居住権と配偶者短期居住権について解説しました。次回から遺言について説明していきたいと思います。
(注1)
正確には、「最低でも」相続が開始した日から6か月間は無償で居住できる権利です。民法1037条には原則として遺産分割が終了するまでは配偶者短期居住権が存続すると規定されていますが、あまりにも早く遺産分割が終了してまった場合の配偶者の転居準備期間確保のためだと考えらます。