今回は第5回です。現在「法定相続」という相続の基本的なルールを説明しています。

今回は相続財産の「承認と放棄」について説明します。

皆さんは被相続人がお亡くなりになってから、ある一定の期間、相続財産を受け取るか受け取らないか判断する猶予があると思っていませんか?

確かに自分への相続が発生したことを知った時から3か月間の「熟慮期間」が設けられています。でも考えてみてください。この3か月の間、相続財産はだれのものになっているのでしょうか。

実は被相続人がお亡くなりになったその瞬間に相続は開始すると規定されています。(民法882条)

つまり、相続人の方々の意思とは無関係に、相続財産は、瞬間的に相続人の皆さんに移っているのです。それも、原則として被相続人が持っている一切の財産(権利義務)が包括的に承継されます。

相続人は、自分の意思とは関係なく自分のものになってしまっている相続財産(の相続分)を、承認するのか放棄するのかという選択の自由があるというのが民法の立て付けです。

さらに承認にも2パターンあり、プラスの財産もマイナスの財産も全面的に相続する「単純承認」と、プラスの財産の範囲でマイナスの財産も相続する「限定承認」があります。被相続人の借金など債務がどの程度あるか不明で、それでも財産が残る可能性もある場合の選択肢です。実際のケースではあまり見られません。

まとめると「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つから選べるということになります。このうち、「限定承認」「相続放棄」の2つは家庭裁判所への申述が必要です。被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、相続放棄申述書(指定された書式)他戸籍謄本など必要な書類を添付して提出します。

先ほど説明した熟慮期間(3か月)を過ぎると、単純承認したとみなされます。(注1)実際のケースで最も多いものがこれです。

ちなみに、一度した承認や法規は、熟慮期間内であっても「撤回することは出来ないという厳しい決まりが規定されています。(民法919条1項)なかなか厳しい決まりですね。もちろん詐欺や脅迫を理由とする取消しは認められていますので、ご安心を。ただこの取消しにも家庭裁判所への申述は必要です。

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単純承認

単純承認はそう言わなくても(意思表示しなくても)、熟慮期間が経過したり、その期間が経過する前に相続財産の処分を行えば、それで単純承認したとみなされます。財産の処分とは、不動産や自動車など動産の売買、預貯金の消費などが当たるとされます。ただ「相続財産の処分」に当たるかどうかという判断は難しいと言われています。病院の入院費や公共料金や固定資産税などの支払い等を相続財産で行った場合なんかは判断がむつかしいものの例でしょう。

限定承認

相続によって得た財産の限度内だけで債務を弁済する(支払う)という相続を承認することです。限定承認には、財産目録を家庭裁判所に提出して、限定承認することを申述する必要があります。

しかも相続人全員でしなければなりません。一人でも反対する相続人がいれば限定承認はできません。

相続放棄

これも熟慮期間内に家庭裁判所への申述が必要です。注意点は、相続開始前にはできないということです。時々、「私は相続放棄するから」と宣言している方がいらっしゃいますが、家族の中で意思表示するだけでは相続放棄は出来ません。家庭裁判所に行きたくない方は、次回以降で説明する遺言のない場合に行う「遺産分割協議」のなかでなにも相続しないという意思を協議することになります。

相続放棄した相続人は、初めから相続人ではなかったものとみなされます。なので、以前お話しした代襲相続も生じません。

もう一つ、遺言で被相続人から遺贈を受けた相続人が相続放棄する場合、遺贈の受遺者の立場は失うことはありません。相続放棄したとしても、遺贈を受ける相続財産を取得することができます。

以上、相続財産の承認と放棄について解説しました。次回は、相続財産の共有と分割について説明します。

行政書士藤本浩司事務所

(注1)

「みなす」とは異なったことを法律的に同一だと決めて扱うことを言います。反論も反証も認められません。「擬制する」と表現されることもありますが、この場合は「みなされる」よりさらに強く決めつける表現だと言われる法律家もいらっしゃいます。日常会話ではあまり使わない言葉が法律用語には多いですね。法律が一般市民の方に理解しにくい要因にもなっています。