今回は第7回です。第2回から「法定相続」という相続の基本的なルールを中心に説明しています。
今回は「遺産分割」について説明します。
遺産(相続財産)とは
遺産分割の対象となるのは、原則として「遺産分割時」に「共同相続人に共有」されている相続財産です。ですので、具体的な計算根拠となる相続財産額も相続時の価額ではなく、「遺産分割時点」の価額となります。例えば不動産や金融資産などの評価額が変動する財産には注意が必要です。
また、平成30年の民法改正で、遺産分割前に財産が処分されたケースに生ずる不公平を是正する措置が取られました。(注1)一部の共同相続人に処分され、分割時には存在しない財産であっても「分割時に存在するものとみなす」という改正です。財産処分を行った当該相続人の同意は必要ありません。ただし、分割時に存在する財産を基準としていることには変わりがないため、分割時に財産が全くなければそもそも遺産分割を行うことができないということになり、この条文は適用されません。
共同相続人の確定
「遺産分割」は、共同相続人の一部を除いて行われた場合は無効となります。ですので、「共同相続人」の確定が非常に重要になります。
相続開始時に依頼された行政書士が最初に行う業務は、相続人を確定するために行う「相続人調査」という業務です。実際には、被相続人を中心に推定相続人をお聞きすることから始めます。被相続人及び推定相続人の「戸籍」ほかの関連書類を収集し、『相続関係説明図』を作成します。被相続人を中心にした家系図のようなものをイメージください。
その際に、相続分の譲渡を受けられた「譲受人」(注2)や遺言で指定された「包括受遺者」(注3)がいらっしゃるかどうかも確認します。これらの方々は遺産分割の当事者となられます。さらに「遺言執行者」(注4)が指名されていらっしゃれば、この方も遺産分割の当事者となられます。
遺産分割の4つの手続き
1.遺言による遺産分割方法の指定(民法908条1項)
被相続人が「遺言で行う」遺産の分割方法です。その方法については、「遺言」について説明する別の回の中で説明します。
2.共同相続人による遺産分割協議(民法907条1項)
共同相続人(前述の「譲受人」「包括受遺者」「遺言執行者」も含みます)が行う分割方法です。共同相続人全員の合意が必要となります。また分割時期の規定はありません。被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも可能です。
また、「1.遺言による遺産分割の指定」がある場合でも、共同相続人全員が合意すれば、遺言の指定とは異なる分割をすることも可能です。
やり直しも相続人全員の合意があれば可能です。ただし、この場合相続税などの税金の問題は残ります。
3.家庭裁判所による遺産分割審判(民法907条2項)
上記1.2.での協議が整わない場合、相続人の申立てによって家庭裁判所によって行われる遺産の分割です。家庭裁判所が、民法の規定(注5)に基づき、具体的相続分なども考慮して遺産分割を行います。
4.調停分割(家事事件手続法244条、274条1項)
家庭裁判所は、上記③による審判が行われる前に、当事者の意見を聴いて、「調停による分割」をすることができます。
遺産分割の4つの方法
現物分割
これは現物そのものを分割する方法です。例えば、遺産にA土地とB土地があり、甲と乙の2人が相続人の場合、甲がA土地を取得し、乙がB土地を取得するケースです。
換価分割
遺産を売却して換金した後に、その代金を分割する方法です。
代償分割
先ほどの例でいえば、甲がA土地とB土地の両方を取得するかわりに、甲が乙に対して現金または金銭債権を負担するというケースです。
共有分割
これは、遺産の全部または一部を具体的相続分で共有する方法です。
以上、遺産分割について解説しました。次回は、配偶者居住権という比較的新しく(平成30年改正で)設定された権利について説明します。
(注1)
民法906条の2「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲」
(注2)
「相続分」は遺産分割前でも、そのまま譲渡することが可能です。譲渡する相手は共同相続人でも第3者でも構いません。第3者の場合は、譲渡した相続人以外の共同相続人は、譲渡された相続分を、譲渡から1か月以内であれば、対価を支払い取り戻すことも可能です。
(注3)
「包括受遺者」とは、被相続人から遺言で遺産の全部または一定割合で示された一部を「遺贈された第3者」を言います。「遺産の1/3を遺贈する」というような遺言も「包括遺贈」に含まれています。プラスの財産だけでなくマイナスの財産も含めての承継ですので、相続人と同一の権利義務を有しているとされます。よって、「包括受遺者」も「相続放棄」も「限定承認」も可能ですし、遺産分割協議の当事者でもあります。
(注4)
遺言を被相続人の意思通りに執行する役割を「遺言執行者」と言います。遺言で指定がなければ相続人が遺言を執行しますが、指定があればその方に全面的に委ねられます。遺言執行者には、相続人の中のお一人(複数でも構いません)や弁護士・行政書士などの法曹関係者が指定されることがあります。
(注5)
民法906条に次のように「遺産の分割の基準」が規定されています。
「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」