今回から遺言について説明していきたいと思います。

相続篇第1回で説明したように、被相続人が生前に遺言という方法で自分の財産の相続の意思表示を行った場合、原則としてその意思表示の通りに財産は承継されることになっています。前回まで説明しました「法定相続」のルールは、遺言がない場合のサブ的なルールです。

しかし遺言はその方法や形式が民法で厳密に規定されていて、その規則通りに作成しないと無効となってしまうリスクがあります。(注1)言い換えると、法定相続のルールを理解したうえでないと、遺言者の意思を遺言という形にしにくいのです。ですので、まず遺言をしない場合の法定相続の形を説明させていただきました。今回から数回にわたり、遺言に求められる要件や方式を説明していきます。

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遺言能力

まず「遺言能力」について説明します。「遺言能力」とは、遺言は誰がすることができるのかという話です。

「15歳に達したものは遺言をすることができる」と規定されています。(民法961条)民法の授業では、先生から「15なのでイ(=1)ゴ(=5)ンと覚えよう」と言われたものです。15歳は未成年であり、制限行為能力者(注2)ではあるのですが、単独で遺言を行うことが可能です。ただし当然と言えばそれまでですが、「遺言をするときにおいて、その能力を有しなければならない」とされています。(注3)

また、同じく制限行為能力者である「成年被後見人」であっても、一時的に能力を回復することがあった場合に、お医者さん2名以上の立会いがあれば遺言をすることは可能です。

このように、遺言という形での被相続人の意思を尊重しようという姿勢がみられます。

遺言の方式

遺言の方式は大きく分けて、「普通方式」と「特別方式」の2種類があります。そして「普通方式」に①「自筆証書遺言」と②「公正証書遺言」と③「秘密証書遺言」の3種類があります。

遺言は「普通方式」によるのが原則ですが、例外的に「死亡危急者遺言」「伝染病隔離者遺言」「在船者遺言」「船舶遭難者遺言」の4種類ある「特別方式」によることが許されています。

ここでは、「普通方式」の3種類について法律の規定を説明します。それぞれのメリットとデメリットや実務上の手続きなどについては、次回解説します。

自筆証書遺言

遺言者(被相続者)が遺言の全文・日付・氏名をすべて自筆(手書き)し、かつ押印することが求められます。押印は実印である必要はありません。

平成30年の改正で、相続財産目録を添付する場合は自筆であることを擁しないとされました。自筆証書遺言にパソコンで製作しプリントアウトしたリストをつけてもOKですし、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーしたものを添付してもOKとなりました。もちろんそれらの目録用紙ごと(両面使用するときは両面とも)に遺言者の署名押印が求められます。

公正証書遺言

  • 証人2人以上の立会いの下で、
  • 遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、
  • 公証人がそれを筆記し、遺言者と承認に読み聞かせ(あるいは閲覧させ)、
  • 遺言者及び証人が各自署名押印し、(注4)
  • 最後に公証人が署名押印する

③秘密証書遺言

  • 遺言者が遺言書に署名押印し、
  • 遺言者がその遺言書を1)と同じ印鑑を用いて封筒などに封印し、
  • その封印した遺言書を、公証人1人及び証人2人以上の前で「自己の遺言書であること」「筆者(遺言書を作成した人のこと、代筆者)の氏名・住所」を申述し、
  • 公証人が提出日と遺言者の上記申述内容を封紙(封筒)に記載し、
  • 遺言者、承認、公証人が各自封紙(封筒)に署名押印する

「秘密証書遺言」は自筆である必要はありません。誰かに代筆してもらったものでも構いません。代筆者のことを「筆者」と表現しています。

以上、遺言能力と遺言の方式について解説しました。次回は、遺言の方式を実務面から説明します。

行政書士藤本浩司事務所

(注1)

民法960条には「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と規定されています。「要式行為」と言います。

(注2)

民法ではすべての人は平等な存在として扱われます。民法第3条1項に規定されている「権利能力平等の原則」と言います。しかし、赤ちゃんや子供、知的な障害をお持ちの方や、認知症を発症されておられる方々など、法律で保護しないと意思能力の欠如・不足による不利益をこうむりかねない方々がおられます。

意思能力のない人がした法律行為は無効(民法第3条の2)なのですが、社会の中で行われる数限りない法律行為一つ一つの当事者間で、お互いの意思能力の程度を判断することは、現実的には無理な話です。

制限行為能力者」という概念は、意思能力の欠如・不測の程度をあらかじめ類型化しておき、その方々の法律行為を制限するかわりに、その方々に必要な保護を与えるという趣旨で設けられています。制限行為能力者には、「未成年者」「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」の4類型が規定されています。詳しくは、成年後見制度の回で説明します。

(注3)

この能力は「事理弁識能力」ないし「意思能力」と言います。

「事理弁識能力」とは、物事の良し悪しを判断できる能力のことで、「意思能力」とは、行為の結果を判断する能力のことです。例えば、認知症を患って行為の結果を判断することができない人は、意思能力を有しないとされます。

(注4)

証人は目の見えない方でもOKです。(最判昭和55年12月4日)

そのために公証人が読み聞かせるという方法が認められていますし、その証人が自筆署名できない場合は、公証人がその自由を付記して署名することで証人の署名に替えることができるとされています。