相続について、皆さんがお持ちの疑問にお答えするために、民法の規定を説明し、並行して実務上のポイントなども解説していきます。
今回は第2回です。
前回は「遺言のあるケース」と「遺言のないケース」の2つをご説明しました。
第2回から「法定相続」という、民法に規定されている相続の基本的なルールを説明します。
『法定相続』(遺言のないケース)で、説明するのは以下のようなテーマになります。
たくさんあるようですが、それぞれ大切な事柄ですので丁寧に解説します。
・相続人の範囲
・相続の承認と放棄
・相続財産と相続分
・遺産分割協議
まず今回は「相続人の範囲」についてです。
相続人とは、お亡くなりになった方(被相続人)の相続財産を「包括承継」することができる資格を持つ人のことを言います。
「包括承継」というのは、権利義務の全部を一括して承継するもので、一部だけを選択的に承継することはできませんないというものです。
つまり、現金や預金などの財産は欲しいけれど、田舎にある家と宅地と山はいらない、といったような選択して相続することは出来ないという、いわば「一かゼロか」という究極の選択です。
さらに、亡くなられた方に借金(負の財産)があった場合はもっと難しい判断が求められるかもしれません。別の回で説明しますが、だから「相続放棄」という選択肢も用意されているのです。
民法では、包括承継ができる相続人の種類と範囲を明確なルールで設定しています。
この民法に定められている相続人のことを「法定相続人」と呼んだりします。
では「法定相続人」の種類と範囲を説明します。
① 被相続人の配偶者
② 被相続人の子(その子孫)、親(その親)、そして兄弟姉妹(その子)
以上が「法定相続人」の種類と範囲です。
案外範囲が狭くて対象となる人は少ないと思われた方もいらっしゃるかもしれません。でも現実的な相続のケースでは、判断が難しく裁判所に裁判を起こして判断を求めるということもあります。
では一つずつ、解説します。
① 被相続人の配偶者
亡くなられた方(被相続人)に配偶者がいらっしゃれば常に相続人になります。
ただし民法の規定では、「内縁」の配偶者は相続人ではありません。事実婚のパートナーは法的な配偶者ではないので、相続人ではないというのが現行の規定です。
現行の規定でも、事実婚のパートナーに財産を残すための方法はいくつか考えられます。「生前贈与」や「遺言書」、「生命保険(死亡保険金受取人)」、「特別縁故者手続き」など、別の回で説明します。
② 被相続人の子(その子孫)、親(その親)、そして兄弟姉妹(その子)
「配偶者」は常に法定相続人になるのですが、次の「②被相続人の子(その子孫)、親(その親)、そして兄弟姉妹(その子)」に当たる方々には「順位」があります。②全員が法定相続人になるのではありません。順位の高い方々だけが相続人になり、順位の低い方々はその時点で相続人にはなれないというルールなのです。
順位は以下のように決められています。
第1順位:亡くなられた方(被相続人)の子ども(およびその子孫)
子どもがなくなられている場合は、その子(被相続人の孫)が相続人になります。「代襲相続」と言います。孫にあたられる方もお亡くなりになっている場合は、曾孫(ひまご)が相続人になります(「再代襲相続」)。この先法律上は玄孫(やしゃご、「再々代襲相続」)と引き継がれます。被相続人のお子さんについては、法律上どこまででも代襲相続が認められることになっています。
ここで一つだけ注意すべき点があります。被相続人Aさんと「養子」縁組されたお子さんBさんがいらっしゃって、BさんがAさん以前にお亡くなりになっているケースです。民法887条2項ただし書に規定されているルールなのですが、「養子縁組前」にBさんにお生まれになったBさんのお子さんCさんは、相続人ではないという規定です。ちょっとわかりにくい規定ですね。(注1)
第2順位:亡くなられた方(被相続人)の親(および祖父母)
両親のどちらかが存命でいらっしゃれば、相続人となります。両親ともにお亡くなりになられている場合 に、その親(被相続人の祖父母)に当たる方がいらっしゃれば、その方が相続人となります。ここでの「代襲相続」は規定されていません。
第3順位:亡くなられた方(被相続人)の兄弟姉妹(およびその子)
兄弟姉妹の方々には代襲相続の規定があります。ただし被相続人のお子さんとは違って、再代襲より先は規定されていません。
次回は、相続財産について解説します。亡くなられた方の財産の中には相続財産には入らない財産もあるというお話です。
(注1)「養親」と「養子」の間には、養子縁組により「法定血族関係」が生じるとされています。養子縁組「後」に生まれた子供は、(法定)血族の一員として生まれたということで、代襲相続が可能になるという規定です。
法的な親子関係でつながっている家族のことを「血族」と言います。法律上の「血族」には自然血族と法定血族があって、養子縁組はこの「法定血族」に当たります。さらに血族は「尊属」と「卑属」に分かれます。「尊属」は自分より先の世代にある人たち、親とか祖父母とかです。「卑属」は自分より後の世代の人たち、子供とか孫とかです。「先の」「後の」と言っているのは、年齢の上下のことではなくて、世代が先か後かということを言っています。昔は、自分より年下の叔父叔母という関係もよくあったと聞いたことがあります。